
第124回(2000年)直木賞受賞作です。
「炭水化物やタンパク質やカルシウムのような小説があるのなら、ひとの心にビタミンのようにはたらく小説があったっていい。」という思いが込められた短編集です。
Family(家族)、Father(父親)、Friend(友達)、Fight(戦う)、Fragile(脆い)、Fortune(運)...「F」がキーワードの7つの家族の物語です。
ビタミンF 感想
「BOOK」データベースより
人生の“中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか——」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。直木賞受賞作。
「涙腺キラー・重松清の最泣の一冊 100%涙腺崩壊!」という帯が目に入り、書店で手に取りました。
1話目の物語を読み終えた私は...「まずい、チョイスを間違えたかもしれない」と思い、4話目を読み終わって「もう読むのやめようかな...」と思うのです。
舞台は2000年くらい。私はその頃10代後半だったので、その時代をよく知っている。
そして主人公は、今の私と同年代のアラフォー。
感情移入できる材料は揃っているはずなのに、全くできない。
いや、むしろちょっとだけイラっとする。
なぜだ?
帯に大きく「100%涙腺崩壊!」と書かれているのに、私は泣けないだけでなく、なぜイラっとしているのだ?
心を落ち着けるために、Amazonのレビューをちょっとだけ覗く。
実は私のようにイラついている人が多くて、レビューも荒れているのでは....?という淡い期待を抱きながら。
全体評価★4つ
え、うそうそうそ、めっちゃ高評価じゃん!と私は余計パニックに。
まぁまぁ、落ち着け自分。
とりあえず最後まで読もう....と5話目「なぎさホテルにて」を読み始め...見事にバズーカーで胸を撃ち抜かれていたのでありました。
そして、私は気づくのです。
前半の物語でイラっとした理由に。
全ての主人公は現在の私と同じアラフォーくらいの父親なのですが、私は前半のお話を親の立場ではなく「子供の立場」で読んでいたのです。
だからこそ...悪あがきするような、自分の正義を振りかざすような父親の姿に、思春期の子供目線である私はイラついたわけです。
しかし、5話目「なぎさホテルにて」で急に私は妻(母親)の立場になるのです。
夫婦仲が悪くなり、家族が壊れてしまいそうな状況が描かれているのですが...それが10年程前の自分に重なり、とても胸が苦しくなりました。
主人公の父親(夫)は、特に不満もない平凡な日常の中で不意に「俺の人生は、これか ー。」と思い、妻に冷たく接します。
「わたし、なにかあなたの気に入らないようなことした?」と時に涙ながらに何度も聞く妻に「直す、直さない、好き、嫌いとかじゃない」みたいなことを言います。
妻が悪いわけでもない、妻が嫌いになったわけでもない、これというきっかけがあったわけでもないが、妻に嫌悪感を感じる主人公の男。
重松清は、我が家の話を書いたのか?
これは、10年前の我が夫の話なのか?と思うほどでした。
こんな風に私が思うということは、こういったことは割とよくある話で、アラフォー男にとって、こういう気持ちや状況になることは珍しいことではないのかな?と思ったりしました。
物語の夫婦がその後に離婚したのか、しなかったのかは分かりませんが...少し希望のある終わり方でした。(ちなみに私たち夫婦は、現在仲良く暮らしています。)
ほんの少しのことでズレ始め、ほんの少しのことでそっと寄り添うこともできる。
でも他人だから、結構簡単に背を向けて歩き始めることもできる。
ときめきや新鮮さと共に思いやることを失い、"普通の日常" になってしまったパートナーを鬱陶しく思う。
そんな”夫婦”と言うものを何とも生々しく書いている作品でした。
この「なぎさホテルにて」を含む後半3話は、心地よく読むことが出来ました。
そして最後まで読んで気づくのです。
私は、まんまと重松清ワールドに引きずり込まれたのではないか...と。
前半4話で私がイラっとしたのも、後半3話を心地よく読めたのも、描かれているのが、ただ普通のごくありふれた日常。
だからこそ、自分が勝手に様々な立場に立ち、気づけば物語の中に入り込んでいました。
家族や夫婦がキラキラして愛おしいだけの存在から、いつのまにか「あたりまえ」になり.....時に億劫にさえ感じてしまう。
そしてふと、もう自分がそんなに若くないことを実感する。
この本はきっと、そんな人生の中盤に差し掛かかった人たちへのエール。
「がんばれ」なんて一言も書いていないけれど、「あなただけじゃない」というエールなのかもしれません。